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小屋に潜りたがる5年生 続き

小屋に潜りたがる5年生 続き

前作からの続き 

ハローワークの人に、もう21人も落ちているという話を聞いても僕は全然怯まなかった

  

21人って結構多いとは思うけど  そもそも僕には就職の難易度というか基準がわからなかった

これは最近知った話だけど、僕らは超氷河期世代だったらしい  有名大学を出たのに、ニートをしている同級生(知らない人ね)の記事がヤフーニュースに載っていた 結構悲惨だった  学歴と良い仕事との出会いは比例しないことが多いように感じる   

僕には氷河期の影響はなかった  なぜなら在学中に就職活動というものをしていなかったからだ  教室で募集情報の束を見たくらい

週間ジャンプのように皆が回し読みするような感じで、なんとなく見ていた中によく名の通った居酒屋が載っていたなぁ~ くらいしか覚えていない

何も動こうとしない僕に、先生から「お前どうするんだ?」と聞かれたら「行政書士になる」と適当なことを言っていたような気がする  先生は僕のことをどう思っていたんだろう  っていうか行政書士って何ができるか知らなかったし今もよくわかってない 成長してないな 僕は 

さて、ハローワークの担当の人は僕にここを受けさせないように、説得してくる   

「結構厳しいところですよ 皆落ちていますよ 別のところをご案内しましょうか」と 何人紹介しても落としてしまうこの会社に対する意地悪だったのか、僕の電話での口調から「こいつは無理だろ」 と判断されてしまったのか

「受けるのはいいですよね 紹介はしてくれますよね」と強引に紹介してもらうことに  何人落ちていようが僕はここでバラ色の社会人生活を過ごすんだ  週2回休んでドライブに行って、適当に仕事して・・と妄想はとどまらなかった  

俺はほかの受験者とは違う 気合があるんだ! やっぱり根拠のない自信があったなぁ~

で、まずはその会社のことを調べてみた 

闘うには相手を知らなければいけない 

NPOで、着付け教室を運営していることころなのはわかっていた  その先の情報ということで、会社の場所を突き止めた  なかなかいい場所にある ここで働くのか街の真ん中でいいな~  スーツを着るなんて格好良いな と、どこまでもモチベーションは上がっていく・・  このテンションは、まだデートに誘う前のかわいい女子との妄想に似ている

僕には少し時間があった ハローワークからの紹介状を待たなければいけなかったので、それまで、どうやったらこの妄想が現実化するか、つまりどうしたら雇ってもらえるのか  今できる最良のことはなんだ

第一関門は履歴書

僕は高卒  スポーツが有名な学校なのに部活には行ってなかったし(行きたい部活が廃部だった)、頭も悪い  

18才からバイトで生計をたて、正社員は肉屋を含め2つ  仕事ができる人間かと言われたら、それ以前のレベルだった  今思えば仕事をしてないに近い状態  なんとなく生きている若造なんだから

25才の履歴書の内容はペッラペラ  速読ができなくても60秒で理解できる程度の薄っぺら  山場がなく終わる感じ  例えるなら、2時間のサスペンスドラマの犯人が冒頭5分でわかるような  そんな何のサプライズもないドラマ、誰も見ないよね

それなら職務経歴書で盛るしかないか  

バイトではバイトリーダー(口頭で言われただけ)、肉屋では売り上げを前年の20%アップ(ほんとか?) 今思えば鼻くそみたいな職務経歴書だ  

これではダメだ  何か他のひとがやらないことをしないと22人目になってしまう

ずっと考えていた  仕事中もドライブ中もごはん中も でもひとつしか思い浮かばなかった  

よしやってみっか

うちにパソコンはなかったけど、実家にはワープロだけあった  これを使おう

実家で母親がみていた女性ファッション誌をあさり、ワープロを打った   印刷をし、コピーをし、何度もセブンイレブンに足を運んだ  何往復しただろう 近くて良かったセブンイレブン 

完成までは意外と早かったな

僕はその会社の事業である着付け教室のチラシを作った

たしか、そのチラシは当時20代後半だった観月ありささんをモデルにしたと思う

今ならわかるけど、その会社はそんな若い客層を狙ってはなかったし、広告の何たるかを知らない僕が作るのだからクオリティもひどいものだった (でもその会社はその数年後、実際に観月さんをCMに起用していた すごい偶然 いや先見の明?)

ワープロで打った文字を印刷し、観月さんのページを印刷し、それぞれを切って貼ってコピーするのだから  今なら小学生、いや幼稚園児でも作れる代物だったけど、当時の僕は満足していた 

A4の茶封筒を買い、履歴書と同封する際、「自分だったらこのようなチラシを作って募集をかけます」と文を添えた  

気持ちを入れるために直接持参しようかと考えた  少しでも人と違うことをしないと

けど、何度行ってもその勇気が出ず、会社のドアを開けることはできなかった  仕方ないので会社のビルのポストに直接投函した  もちろん、自分で投函したことがわかるように切手は貼らなかった

僕にあったのは「入りたい」という気持ちだけだった それだけは誰にも負けなかった  9時18時の週休2日は逃せない  営業だって嫌だ  絶対に渡さないぞ (志望動機がとにかく最悪なんだよな) 

そしてある日、携帯が鳴った  面接をするので来てください  書類審査には通った  やった! いや全員と会っていたのかもしれない

何度イメージしたろう “面接で上手に話す僕” “面接官と仲良くなって合格する僕”  良いイメージしか浮かばなかった  これは前向きな人の特徴だろう  それとも自信過剰の方かな

当日は、高校卒業の時に母親が買ってくれた2着のスーツのうち紺色を着て行った  熟考せずに買ったスーツのサイズは少し大きめ、着た経験に乏しい僕はダサかった  ネクタイの結び方も知らず、父親に教えてもらったくらいだった 

母親はどんな気持ちでスーツを買ってくれたんだろう  仕事も決まっていない、今後の予定もない僕に・・  子を心配する気持ち 今なら少しだけ理解できる

緊張して向かった会社  履歴書を持っては開けられなかったドアをやっと押すことができた  

少し年上のかわいらしい感じの女性に応接室に通される  待っていると、やってきたのは30代くらいの男性が目の前に座った  

優しい口調だけど、下手に出るわけでも、上からでもなく自分がしっかりある男性に見えた

動機などを聞かれ、「母が正月に着ていて、着物には縁があって・・」みたいな誰もが言いがちな返答をしたのだけは覚えている

自分でもつまらないこと言っているな~ なんて思いながら  手ごたえも何もなくて 

終盤、「では結果はおって連絡します」待ちだ  合格率は、う~ん30%位だな と思っていたら

「いつから来れる?」と

えっ いいんですか? 僕でいいんですか? と内心  もちろんそんなことは言わないけど  

晴れて初のホワイトカラーに決定した僕

念願の会社に入ることができました  絶対にこの勝ちはチラシのおかげだと思うけれど、入社してからその話には一切なりませんでした  どう思ったのか聞いてみたかったな

その面接官は社長の右腕という偉い方でした そして面接のときに案内してくれたかわいらしい女性は仕事のできる僕の上司   ふたりとも僕をかわいがってくれました  

おふたりはしばらくして退職され、女性は家庭を持ち遠く引っ越されましたが、たまに食事に誘ってくれます  男性は九州で福祉系の仕事をされているとか  懐かしいな

その会社は決してゆるい会社ではなく、僕は鍛えられました  新卒のようなレベルからスタートしたので、すべてが経験でした  大変さもあったけど良い人との出会いもあり・・・ 現在があります 

あれほど自分の欲にまっすぐに突き進んだ「本気」はなかなかありません  若かったな~

今は『どうしてもやりたい』と思えることは、自分のためではなく、会社や先生、スタッフのためということが多い気がします

だから、皆で相談して取り組むこともできる 今は仲間がいる そんなことは想像もしていなかった

あの頃も今もやる気が重要だと思います

そして彩蔵は来月で12周年です

13期もやる気満々で挑みます!    

  

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